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大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)11195号 判決

反訴原告

山本幸雄

反訴被告

柴山辰雄

主文

一  反訴被告は、反訴原告に対し、金一五〇四万九九八六円及び内金一三九四万九九八六円に対する昭和六一年一月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その三を反訴原告の負担とし、その余を反訴被告の負担とする。

四  この判決は反訴原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  反訴被告は、反訴原告に対し、金三六四一万一九二二円及び内金三四二一万一九二二円に対する昭和六一年一月二八日から支払済みまで年五分の割合により金員を支払え。

2  訴訟費用は反訴被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  反訴原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は反訴原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

次のとおりの交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 昭和六一年一月二七日午後六時三五分頃

(二) 場所 大阪府八尾市恩智中町三丁目二一一番地先T字型交差点路上

(三) 加害車 反訴被告が運転していた軽四輪貨物自動車(大阪四三う三一七二号)

(四) 被害車 反訴原告が運転していた原動機付自転車

(五) 態様 被害車が道路左端を進行して右交差点にさしかかつたところ、右前方を対向してきた加害車が被害車の方に進路を変更してきたため被害車に接触し、反訴原告が転倒した。

2  責任原因(一般不法行為責任、民法七〇九条)

反訴被告は、加害車を運転中、右前方の交通の安全を確認せずに右方へ進路を変更した過失により、本件事故を発生させた。

3  損害

反訴原告は、本件事故により、次のとおり受傷して治療を受け後遺障害が残つたため、以下に述べるとおりの損害を被つた。

(一) 反訴原告の受傷等

(1) 受傷

頭部打撲、前額部切創、胸部打撲、左肩・左手背打撲、外傷性頚腕症、右足第二中足骨骨折

(2) 治療経過

〈1〉 昭和六一年一月二七日から同年五月二八日まで貴島病院に入院(一二二日間)

〈2〉 昭和六一年五月二九日から同年一一月二六日まで右病院に通院(実日数一二二日)

(3) 後遺障害

〈1〉 右足足関節機能障害、右足足指全部の用廃

〈2〉 昭和六一年一一月二六日右症状固定

三  右足足関節機能障害につき自賠法施行例二条別表の後遺障害等級表一二級七号に、右足足指全部の用廃につき同表九級一五号に各該当し、併合で八級に該当

(二) 治療関係費

(1)  治療費 六〇万六三三三円

但し、昭和六一年一月二七日から同年一〇月三一日までの分

(2)  入院雑費 一八万三〇〇〇円

入院中一日一五〇〇円の割合による一二二日分

(3)  通院交通費 四八万三〇六〇円

反訴原告は、通院中右足が不自由であつたため、タクシーを利用し、その費用の合計として右金員を要した。

〈1〉 既払分 四五万三五九〇円

〈2〉 未払分 二万九四七〇円

(4)  装具代 七二〇〇円

(三) 逸失利益

(1)  休業損害 三八三万五二三二円

反訴原告は、本件事故当時不動産業の北川商事に勤務して、物件案内及び物件説明等の仕事に従事し、一か月三八万五〇〇〇円の収入を得ていたが、本件事故により、昭和六一年一一月二六日までの三〇三日間休業を余儀なくされ、その間三八三万五二三二円の収入を失つた。

(計算式)

385,000×12÷365×303≒3.835,232

(2)  後遺障害による逸失利益 二二八二万九五〇〇円

反訴原告は、前記後遺障害のため、その症状固定時から就労可能な六七歳までの一五年間、その労働能力を四五%喪失したものであるから、反訴原告の後遺障害による逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利益を控除して算出すると、二二八二万九五〇〇円となる。

(計算式)

385,000×12×0.45×10.981≒22,829,500

(四) 慰藉料

(1)  入通院分 二〇〇万円

(2)  後遺障害分 七五〇万円

(五) 弁護士費用 二二〇万円

(六) 損害額合計 三九六四万四三二五円

4 損害の填補

反訴原告は、本件事故による損害につき、反訴被告から合計三二三万二四〇三円の支払を受けた。

5 本訴請求

よつて請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は本件事故発生の日の翌日である昭和六一年一月二八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による。但し、弁護士費用に対する遅延損害金は請求しない。)を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の(一)ないし(五)は認める。

2  同2は認める。

3  同3の(一)の内、(1)及び(2)は認めるが、(3)は争う。反訴原告は後遺障害につき自賠責保険に対し被害者請求をして、前記等級表の一四級一〇号に該当するとの認定を受け、その後異議を申立てたが却下されている。

同3の(二)の内、(1)及び(4)は認めるが、その余は争う。

同3の(三)ないし(六)は争う。反訴原告は本件事故当時北川商事に在籍してはいたが、昭和六一年一月一日からは欠勤して離職中であつたから、休業損害は生じない。

4  同4は認める。

三  抗弁

1  過失相殺

本件事故の発生については、反訴原告においても、幅員約三メートルの狭い道路で対向してくる加害車を発見したのであるから、できるだけ左側に寄つて徐行し、かつ前方の加害車の動静を確認すべき注意義務があるのに、これを怠つて漫然と直進してきた過失があるから、反訴原告の損害賠償額の算定にあたつては過失相殺により二割減額されるべきである。

2  損害の填補

反訴原告は、その自認している分以外に、自賠責保険金として七五万円の支払を受けた。

四  抗弁に対する認否

抗弁1及び2は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  交通事故の発生

請求原因1の(一)ないし(五)の事実は、当事者間に争いがない。

二  責任原因(一般不法行為責任)

請求原因2の事実は、当事者間に争いがない。

従つて、反訴被告は民法七〇九条により、本件事故によつて生じた反訴原告の損害を賠償する責任がある。

三  損害

1  反訴原告の受傷等

請求原因3の(一)の(1)及び(2)については、当事者間に争いがない。

反訴原告の右足部の後遺障害の内容及び程度につき争いがあるので、これについて検討するに、成立に争いがない甲第二号証、第三号証の一ないし四、第四号証の一ないし三、第六号証の一、二、第七号証、乙第三号証、昭和六一年一月二七日及び同年五月一日それぞれ反訴原告の右足部を撮影したレントゲン写真であることについて争いのない検乙第一号証及び第二号証、並びに証人北川洋の証言、及び反訴原告の本人尋問の結果によれば、次のとおりの事実が認められる。

(一)  反訴原告は、本件事故により右足第二趾中足骨骨折の傷害を受けたが、これは右足の親指の隣の指の付け根の部分を骨折したものであり、ギプスによる固定を昭和六一年三月五日まで受けた後、部分荷重、即ち歩行訓練を指示された。同年五月には骨癒合が完成し、以後リハビリを指示されたが、右足部全体に痛みと腫れがあつて、骨の萎縮も認められた。

(二)  主治医である北川洋医師は、昭和六一年一〇月一日付で一旦症状固定として後遺障害診断書を作成した後、最終的には同年一一月二六日付で症状固定とし、自覚症状として「右足関節から右足背の疼通、腫張があり、寒冷にて増強する」との症状が、他覚的所見として右足背の知覚鈍麻、並びに右足の足関節機能障害(背屈は、他動が右一五度、左二〇度、自動が右一〇度、左二〇度。底屈は、他動、自動とも右三〇度、左四〇度。)及び足指関節機能障害(第Ⅰ趾のMP、即ち中足指節関節の背屈、即ち伸展は、他動、自動とも右二〇度、左四〇度。底屈、即ち屈曲は、他動が右一〇度、左四〇度、自動が右〇度、左四〇度。第Ⅰ趾のIP、即ち指節間関節の背屈は、他動、自動とも左右〇度。底屈は、他動、自動とも右二〇度、左四〇度。第Ⅱないし第Ⅴ趾のMPは、各趾とも背屈が、他動、自動とも右一〇度、左三〇度。底屈は、他動が右左とも一〇度、自動が右〇度、左一〇度。)の各所見が後遺障害として残り、その回復は見込み難いとの診断を下した。

(三)  反訴原告は、昭和六二年二月一九日自賠責保険に対し後遺障害分の損害につき被害者請求の手続きをとつたため、調査事務所では同年三月一九日主治医である前記北川医師から「外傷後ズデツクの骨萎縮を来し、患部の足関節から全趾に及ぶ浮腫、疼痛、血行障害を呈したため、足趾の関節拘縮を残したもので、五二歳という年齢的な理由から改善困難と思われる。」との意見を聴取し、更に同年四月二二日顧問医である大阪厚生年金病院の山本利美雄医師のもとで反訴原告に再検査を受けさせたうえ、同年五月一二日同医師から「軽度の骨萎縮はあるも二次性関節症の所見も認めない。下腿周径で二センチメートルの差があり、右が細いが、筋力テストでは弱化はなく、これは廃用性萎縮によるもので病的とは思われない。足関節、足指の可動域も左右差は少なく、各一〇度以内である。歩行障害という程の症状はなく、あるとすれば、右下肢を充分に使用(荷重)していないための筋肉と骨の軽度の萎縮が原因であろう。これは今後充分に全荷重歩行を行うことで軽快すると思われる。」との意見を徴取した後、右同日右足関節に神経症状を残すものとして自賠法施行令二条別表の後遺障害等級表一四級一〇号に該当するものと認定した。

(四)  反訴原告は、前記北川医師から「患者は右足第二中足骨骨折後に、右足足背から足趾全体に及ぶ著明な浮腫を生じ、自動、他動運動がともに困難な状態が続き、その結果骨折の骨癒合後も関節拘縮を残したと考える。一般に、手部あるいは足部に骨折等の外傷を受けた場合、外傷後の浮腫により、関節(特に小関節)の拘縮に至る事実は、日常よく遭遇することである。拘縮が永続するか否かは、り患関節、受傷年齢、浮腫の持続期間等により決定されると考える。五二歳の患者が足趾の関節を長期間の浮腫にさらされた場合、永続する関節拘縮に至つたことは充分に理解できると考える。」との回答書を得たうえ、昭和六二年九月九日これを添付して前記認定に対する異議を申し立てたが、自動車保険料率算定会において既認定どおりとされ、同年一一月一一日付で右の異議を却下された。

まず第一に、反訴原告の右足部に認められる骨萎縮の原因につき考えるに、前記のとおり、主治医の北川医師はズデツクの骨萎縮によるものであると主張し、調査事務所の顧問医の山本医師は廃用性萎縮を主張するところ、証人北川洋の証言によれば、ズデツクの骨萎縮とは、軽微な外傷後に主に手足に発生する、痛みと腫れを伴つた骨の萎縮であり、捻挫や骨折などを被つた局所の腫れが永続するばかりでなく、周りに広がつていき、そのうち近傍の関節まで拘縮に陥るものであつて、レントゲン上ではカルシウムの抜けた状態、つまり骨萎縮の状態として証明されること、病因としては、自律神経を介して血管の収縮性が阻害され、骨や周りの軟部組織の栄養状態が不良になることによつて引き起こされる疾患と理解されているが、その治療法は未だ確立されていないこと、反訴原告の場合にも、右足部の比較的小さい骨の単純な骨折に引き続いて浮腫が持続し、更に痛みも非常に強くなり、近傍の関節まで侵され、昭和六一年一月二七日と同年五月一日の各レントゲン写真を比較してみても右足部のカルシウムが抜けた状態が証明されていること、骨萎縮が生じている場合には、皮膚、筋肉、腱、靭帯といつた骨以外の組織にも栄養が十分にいきわたらず、関節の周囲の軟部組織が伸縮性を失つてその動きが悪くなつたりすることが考えられることが認められ、これらの事実を総合すれば、他に反訴被告からの反証がない以上、反訴原告の骨萎縮の原因は単に右下肢を十分に使用しなかつたことによるものということはできず、反訴原告の右足部にズデツクの骨萎縮が生じ、これによつて右足関節や右足指関節の機能障害が発生しているものと認めるのが相当である。

次に、反訴原告の右足関節及び右足指関節の各可動域については、前記のとおり、その症状固定時における主治医による診断があるほか、その後調査事務所の顧問医によつて再検査が実施されており、これによれば、その各可動域の左右差は少なく各一〇度以内の差であるとされているところ、その具体的な数値が明らかでないうえ、可動域の左右差が一〇度以内であつたとしても関節機能障害の後遺障害が認定される可能性は否定できず、この点に関しても、他に反訴被告の反証がない以上、前記の症状固定時における主治医の診断による数値に基づいて、反訴原告の後遺障害の認定をなすべきであると考えられる。

そこで、反訴原告の症状固定時の右足関節及び右足指関節の機能障害が自賠法施行令二条別表の後遺障害等級表のどの等級の後遺障害に該当するか判断するに、右等級の認定に際しては、右等級表とほぼ同一の内容を持つ労働災害身体障害等級表の認定基準である労働災害「障害等級認定基準」に準拠して判定するのが相当であると考えられるところ、これによれば、反訴原告の右足関節の運動可能領域は、健側の左の運動可動域に比べて四分の三以下に制限されているから、右等級表の一二級七号の「一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」に該当するとみるのが相当である。また、右足指の内、第Ⅰ趾及び第Ⅱ趾は、いずれも少なくともMP(中足指節関節)の運動可動領域が、健側の左の運動可動域に比較して二分の一以下に制限されており、著しい運動障害を残すものであるから、足指の用を廃したものというべきであるが、第Ⅲないし第Ⅴ趾については、完全硬直したものでないので用廃とは評価できないから、結局反訴原告の右足指関節の機能障害は、右等級表の一一級一〇号の「一足の第一の足指を含み二以上の足指の用を廃したもの」に該当するとみるべきであり、前記の一二級七号との併合により、反訴原告の右足部の後遺障害は全体として右等級表の一〇級に相当するというべきである。

2  治療関係費

(一)  治療費 六〇万六三三三円

請求原因3の(一)の(1)については、当事者間に争いがない。

(二)  入院雑費 一四万六九〇〇円

反訴原告が一二二日間入院したことは前記のとおりであるが、前掲甲第二号証によれば内九日間外泊していることが認められるから、右入院期間から右外泊日数を除いた一一三日間について一日一三〇〇円の割合による合計一四万六九〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができ、これを超える分については、本件事故との相当因果関係が認められない。

(三)  通院交通費 四八万三〇六〇円

成立に争いのない乙第六号証、反訴原告本人尋問の結果及びこれにより真正な成立が認められる乙第一号証の一ないし二一、並びに弁論の全趣旨によれば、請求原因3の(一)の(3)の事実が認められる。

(四)  装具代 七二〇〇円

請求原因3の(一)の(4)については、当事者間に争いがない。

3  逸失利益

(一)  休業損害 三七八万四六〇二円

反訴原告本人尋問の結果、並びにこれにより真正な成立が認められる乙第二号証の一ないし六及び第四号証によれば、反訴原告は昭和九年一一月二〇日生まれで本件事故当時五一歳であり、昭和六〇年七月から不動産業の北川商事に勤務し、社長の指示を受けて客を現場まで自動車に乗せて連れていく仕事をして、同年一二月まで月額平均三八万五〇〇〇円の収入を得ていたが、昭和六一年一月中は母親の病気の看病等で欠勤し、同年二月一日から再び出勤する予定であつたところ、本件事故による受傷のため、症状が固定した同年一一月二六日までの二九九日間休業を余儀なくされ、その間三七八万四六〇二円の収入を失つたことが認められる。

(計算式)

385,000×12÷365×299=3,784,602(一円未満切捨て、以下同じ)

(二)  後遺障害による逸失利益 一二三八万七三九二円

前記認定の後遺障害の部位、程度、並びに反訴原告の業務内容及び収入額等によれば、反訴原告は右後遺障害のため、その症状固定時である五二歳から就労可能な六七歳までの一五年間、その労働能力を二七%程度喪失したものと認められるところ、本件事故当時の就労状況及び年齢等からみて、その当時の収入額を六〇歳までの八年間は維持できたと考えるとしても、その後の六七歳までの七年間については、昭和六二年賃金センサスによる六〇歳から六四歳までの全男子労働者の平均賃金である年間三五一万五三〇〇円程度の収入を得ることができたにとどまるものと考えるのが相当であるから、反訴原告の後遺障害による逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、一二三八万七三九二円となる。

(計算式)

385,000×12×0.27×6.5886=8,218,619

3,515,300×0.27×(10.9808-6.5886)=4,168,773

8,218,619+4,168,773=12,387,392

4  慰藉料 五〇〇万円

本件事故の態様、反訴原告の傷害の部位、程度、治療経過、後遺障害の内容、程度、その他諸般の事情を考えあわせると、反訴原告の慰藉料額は、入通院分及び後遺障害分を合わせて五〇〇万円とするのが相当である。

5  損害額合計 二二四一万五四八七円

四  過失相殺

成立に争いのない甲第一号証の五ないし七及び一〇によれば、次のとおりの事実が認められ、反訴原告本人尋問の結果中のこの認定に反する部分については、右各証拠に照らして採用し得ず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

1  本件事故は、幅員約三・四から三・六メートルの東西道路と南方からの道路とが交差するT字型交差点内で発生したものであり、その付近の最高速度は時速二〇キロメートルに規制されていた。

2  反訴被告は、幅一・三九メートルの加害車を運転して、右東西道路上を道路北端との間に約一・六メートルの間隔をとつて時速約二〇キロメートルで西進中、右交差点付近にさしかかつたところ、約一九メートル前方の道路北端から約一・五メートル南側の地点を対向してくる被害車を発見し、その手前の右交差点南詰付近にも三人位の歩行者を認めたため、そのまま直進すればちよつと危ないとは思つたものの、被害車が北に寄つてくれればなんとか擦れ違えると考えて、同速度で進行し右歩行者を避けて少し北へ進路を変更した結果、約九・二メートル先の右交差点内で加害車の右前部を被害車の右ハンドルに接触させた。

3  反訴原告は、幅〇・六メートルの被害車を運転して、前記東西道路上を時速約二〇キロメートルで東進中、前記交差点にさしかかり一旦これを右折しようとしたが、右折をやめて直進したところ、被害車と接触したものであり、右交差点に入る前には、右道路上に歩行者がおり、対向してくる加害車にも気づいていた。

右認定の事実によれば、本件事故の発生については、反訴原告においても、幅員三・五メートル前後の狭い道路を歩行者を避けながら対向する四輪車と擦れ違う場合なのであるから、徐行して出来るだけ道路左側に寄り、対向車の動静を注視しながら安全な間隔をとつて進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、時速約二〇キロメートルで道路中央寄り付近を漫然と進行した過失が認められるところ、反訴被告の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として反訴原告の前記損害額からその二割を減ずるのが相当と認められる。

そうすると、過失相殺後の損害額は一七九三万二三八九円となる。

五  損害の填補

請求原因4の事実は、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第五号証によれば、抗弁2の事実が認められる。

よつて、前記過失相殺後の損害額から填補額合計三九八万二四〇三円を差引くと、残損害額は一三九四万九九八六円となる。

六  弁護士費用

本件事故の内容、審理経過、認容額等に照らすと、反訴原告が反訴被告に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は、一一〇万円とするのが相当であると認められる。

七  結論

以上の次第で、反訴被告は、反訴原告に対し、一五〇四万九九八六円及び内弁護士費用を除く一三九四万九九八六円に対する本件事故発生の日の翌日である昭和六一年一月二八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、反訴原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 細井正弘)

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